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奈良といえば鹿。
春日大社に祀られる神様「タケミカヅチ」が、
大きな白鹿に乗って茨城の鹿島神宮からやってきたという伝説があり、
その鹿の末裔が奈良公園の鹿と言われている。
なので、奈良公園では古来から鹿は神様の使いとして大切にされてきた。
奈良時代の万葉集や、平安時代の日記に、
春日参りの際に鹿を見て拝礼したとの記述があるそうで、
少なくとも平安時代には、神社仏閣の境内にいたと思われる。
奈良と鹿の関係には、長い歴史根拠があるのだ。
現在も、車も人も行き交う都市部に、野生の鹿が約1300匹も生息しているが、
それを可能にする大自然が、町のすぐ近くに広がっているのが奈良の最大の特徴である。
その稀さゆえに、品種はありふれたニホンジカだが、
奈良公園の鹿は国の天然記念物に指定されている。
観光客が、鹿に「鹿せんべい」をあげる光景は奈良の名物である。
柵がある動物園に行くのではなく、シームレスで野生の鹿と触れ合える。
こんな光景、世界の他のどこにもないのだ。
まさに神仏の歴史の神秘を感じられる、日本を代表する観光地であり聖地である。

さて、本コラムはここからが本題である。
実は、以前仕事で観光客の方を乗せた時、
「鹿にエサをやっていいんですか?」と、違和感のある質問をうけたことがある。
鹿にエサをやっていいんですかってw
奈良公園は鹿にエサをやるところだw
さきほど、野生の鹿が生息し、鹿せんべいをあげれる観光地は、
世界でも奈良にしか存在しないと書いた。
あれ?と思った人もいるであろう。
そう、実はもう1か所あるのだ。
皆さんもご存じの、
広島の宮島である。
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世界遺産の厳島神社があり、海に浮かぶ鳥居の姿が有名だ。
その宮島にも奈良公園のように鹿がいるのだ。
ご存じの方も多いであろう。
しかし、なぜ宮島にも奈良公園のように鹿がいるのか、ご存じであろうか?
奈良の人は、それほど不思議なイメージを持っていないのかもしれない。
なぜなら、奈良の人には鹿は珍しい存在ではないので、
まぁいてもおかしくはないwそんなもんであろうと思っている。
そんなことはない。
明らかに異常である。
今回、観光客の方からの違和感のある質問もあり、
いろいろ疑問も湧いたので、調べてみることになったのだが、
衝撃の事実を知ることとなる。

まず、なんと宮島の鹿には歴史的由来がない。
奈良には、春日大社のタケミカヅチが鹿に乗ってきた伝説があったが、
宮島の厳島神社にはそんな言い伝えはまったくない。
厳島神社の祭神は、市杵島姫命(イチキシマヒメ)といい、
九州にある宗像大社の宗像三女神とも言われ、
海の神。水の神と言われる。
鹿とは結びつかない。
しかし、日本人は古来から自然を崇拝する民族であり、
山を神聖化し、そこに住む動物も神の使いのように考えた。
なので、山に住む鹿を大切に扱う習慣は、
宮島にも、以前からはあったようだ。
しかし、戦後の食糧難などもあり、島の鹿は激減。
その後、鹿の数を元に戻すためと、観光復興のために、
奈良公園から鹿を連れてきて繁殖させたのが、
現在の宮島の鹿というのだ。
その後、順調に鹿の頭数も戻り、奈良に習い「鹿せんべい」も作り、
餌付けされた鹿は山から下り観光地に住むようになった。
そして、異常繁殖。
エサを求めて街を荒らす鹿の被害が続発。
そもそも宮島には、奈良公園のような大量の鹿のエサになる自然がないそうなのだ。
宮島の鹿は総頭数は500と言われるが、奈良公園はその倍以上だ。
しかし、宮島では鹿が溢れた。しかも観光地である街中で。
いや、奈良も観光地である街中に鹿はいるのだが、
奈良はその街中に大自然が広がっているのだ。
困った宮島の行政は、鹿せんべいの販売禁止を決定。
世界初の、鹿せんべい規制である。
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鹿へのエサやりを禁止することで、鹿を山へ帰そうとする作戦なわけなのだが、
山に帰ったところで鹿のエサになるような植物があるわけでもなく、
結局、鹿は観光地である街中に留まり続け、
観光客にエサをねだるも、鹿せんべいは規制され、
事実上、鹿を餓死させて駆除しているような状況に陥ってしまった。
宮島の鹿は、奈良の鹿に比べて行儀が悪いと話を聞いたことがあったが、
そらそうであろう。宮島の鹿は空腹で死にかけており必死なのだ。
奈良公園の鹿なんて、腹いっぱいで鹿せんべいすら食わないこともあり、
いかにその違いがわかっていただけることかと思う。

これで、冒頭の「鹿にエサをやっていいですか?」と聞いてきた、
観光客の方の違和感ある質問の謎も解けてきた。
おそらく、あの方は先に宮島を観光した経験があったのだろう。
宮島を訪れた観光客は、鹿にエサをやらないでください」と注意される。
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奈良とは真逆の状況である。
奈良には、巨大鹿せんべいを飛ばす競技まで存在し、
宮島の人からすれば犯罪行為に近いことが奈良では日常的に行われている。
しかし、現在の奈良と鹿の関係も、簡単に築かれたものというわけではなく、
近代にかけては紆余曲折があり、現在も問題が解決しているわけではない。
詳細については、「奈良の鹿―「鹿の国」の初めての本 (あをによし文庫) 」の本が詳しいが、
ただ言えるのは、奈良はあえて無謀とも言える、
野生の鹿との共存という道を選んできたということである。
そこには、やはり下地には春日大社の神鹿伝説と、
信仰があったことが大きいであろうと思われる。
結果、今やそれが奈良の最大の特徴にもなり、
観光資源としての効果は計り知れない。
しかし、それはそう簡単には開けてはならないパンドラの箱でもあるのだ。

参考サイト:
おしい!じゃなくて「残念すぎる!広島」~宮島の鹿たち~
動物の解放宮島の鹿について
宮島の鹿は泳いできたのー?
宮島の鹿①
宮島の神鹿を訪ねて

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