「甦る玉虫厨子」というDVDがある。
玉虫厨子と言えば、日本最古の工芸品とも言われ、
法隆寺に伝わる国宝として有名であるが、
実は復元された玉虫厨子が存在することは、あまり知られていない。
その制作過程を追ったドキュメンタリーが、このDVDである。
2004年に、玉虫厨子の復元プロジェクトがスタートした。
発起人は、岐阜県高山市の造園業・故・中田金太氏である。
氏は、現代の技術で甦る玉虫厨子を見たいと、
技術の継承も願い、私財を投じてプロジェクトをスタートさせた。
制作にあたりは、全国から職人が集められた。
それは、建築士、宮大工、蒔絵師、彫師、錺金具師と、
各パーツを、一級の職人が分担するという作業で、
のべ4000人の職人が関わったという。
これは、単なるコピーした復元を作るのではなく、
現在の技術で作る、本物の工芸品なのである。
なにせ、本体の玉虫厨子は国宝であり、
簡単に手を触れ調査できるものではない。
職人は、少ない資料と、現物を見た記憶を頼りに復元を目指す。
玉虫厨子の壁画には、仏教逸話の絵が描かれるが、
1400年の時間とともに色は薄れ、まさにその作業は解読の域である。
土台との間の、ハスの花びらの部分は、
硬いクスノキで彫られているようで、
オリジナルは仏像を作る仏師が掘ったのかもしれないとされる。
現代版は、彫師がその芸術的な技で見事な曲線を再現していく。
屋根の部分は、彫刻によって瓦屋根が表現されている。
再現する職人も凄いが、飛鳥時代の職人の技術と発想には驚愕する。
装飾のメインとなる「玉虫の羽」は、国内だけでは賄いきれないので、
東南アジア各地から集められた。
装飾に玉虫が使われたのは、玉虫は朽ちた木に卵を産み生まれることから、
泥沼からハスの花が咲き、仏が生まれる姿に重ねられたのではないかという。
玉虫の羽を押さえることになる、金具の装飾は、
錺(かざり)金具職人たちによって作られた。
現在の糸ノコなどの器具があっても慎重な作業を要するのに、
飛鳥時代であれば、今より原始的な工具しかなかったはずで、
その作業を考えると、職人も想像を絶するほどのものだと言う。
金具は600種類におよび、2000枚も作られた。
平成19年6月、復元玉虫厨子の完成を待たすして、
発起人の中田金太氏が亡くなる。
氏の精神は受け継がれることになるが、
実は氏の構想には、飛鳥時代の工芸品をただ復元するだけでなく、
現代の最新の技術で、復元以上の
「平成の玉虫厨子」を作るというものがあった。
そして、当時の姿に忠実に復元した「復刻版・玉虫厨子」は法隆寺に寄贈し、
「平成の玉虫厨子」は、地元高山の美術館に寄贈するというのが氏の願いである。
作業は、「復刻版」と「平成版」が同時に行われており、
基本の外観は同じであるが、特に違うのは壁画の装飾であり、
「復刻版」では、3色の色で彩色されただけであったが、
「平成版」では、壁画部分にも玉虫の羽を使い、
モザイクのように色をつけていくという気の遠くなるような作業を施した。
(復刻版)
(平成版)
金粉も惜しみなく使い、
まさに最高技術と、最高級品の玉虫厨子が完成した。
2基の制作で、1億円強の製作費がかけられた。
まさに、これは単なる復元品ではなく、
平成の時代に、本物の玉虫厨子が甦ったのである。
2008年3月に完成披露がされ、その後、「復刻版・玉虫厨子」は法隆寺に寄贈され、
現在も、春と秋に公開される法隆寺の秘宝展にて見ることが出来る。
「平成版・玉虫厨子」は、岐阜県高山市の「茶の湯美術館」にて通常展示されている。
岐阜県に訪れた際や、奈良の法隆寺に訪れた際には、
ぜひ見たい一級品である。
興味がある方には、この制作を追ったDVDもおススメしたい。
蘇る玉虫の厨子 時空を越えた技の継承 [DVD]
私は以前、amazonでタイミングよく安価で購入できたのだが、
品薄でプレミアがついて高値がついているようである。
茶の湯美術館では普通に定価で売っていたので、
(2017.10.22更新「平成の玉虫厨子」を見に行く)
「平成版・玉虫厨子」を見にいくついでに買うのもありかもしれないw
ぜひ機会があれば見て損はない内容だ。
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