奈良に来たならぜひ見るべきおすすめ仏像と、
その魅力を発信していく「奈良仏像のすゝめ」。
今回紹介するのは、東大寺の「僧形八幡神坐像」

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まず初めにお断りしておくと
この東大寺に伝わる「僧形八幡神坐像(そうぎょうはちまんしんざぞう)」は、
仏像ではなく、神像である。
東大寺の境内には、現在も「手向八幡宮(たむけやまはちまんぐう)」という神社があり、
神仏習合しているのはよく知られることだが、そこの御本尊として作られたものだ。
いわゆる"八百万の神々"と呼ばれる、我々が神社に祀る神様というのは、
自然などあらゆるものに宿る一種の魂のようなもので、
目にすることは出来ないが、それを僧侶の形として可視化されているのだ。
実は、この「僧形八幡神坐像」には見本となった元ネタがあり、
京都の神護寺に伝わる八幡神の姿を描いた「御影画像」が元になっている。
神像を造るにあたり、その「御影画像」を譲り受けるつもりだったようだが、
神護寺が所有権を主張したため叶わず、なんと密かに写していたものを元にして、
この「僧形八幡神坐像」が造られたという。
それを指示したのは、鎌倉時代に東大寺の再建に尽くした重源(ちょうげん)とされ、
造ったのは、仏師・快慶(かいけい)その人である。

快慶は、自らを「アン(梵字)阿弥陀仏」と名乗るほど仏教に帰依していた人で、
重源のもとで多くの仏像を造っている。
その中でも特に、快慶の造る阿弥陀如来像は、
独特の洗練された様式美の格調高い姿で「安阿弥様(あんなみよう)」と称され、
この「僧形八幡神坐像」でも、その個性が如何なく発揮されている。
やはりなんと言っても、その特徴は凛々しい顔つきで、
以前紹介した「騎獅文殊菩薩像」とも共通する。
衣の彩色は、元となった「御影画像」を忠実に再現していると思われ、
頭のてっぺんが黒いのは汚れではなく、髪の剃り痕を薄い青で表現。
墨で一本づつ描かれる眉の細かさや、玉眼ではなく彫眼の目頭と目尻には、
通常の仏菩薩に入れる青ではなく赤がさしてあるそうで、
慈悲ではなく、威厳を感じる神の姿の快慶なりの表現なのであろうか。
ちなみに「僧形八幡神坐像」は、現在は東大寺の勧進所八幡殿に祀られるが、
基本秘仏であり、毎年10月5日の転害会の時に開帳されるのみである。

■仏像DATA
名前【僧形八幡神坐像】
場所【東大寺(MAP)】
製造時期【鎌倉時代】
技法・材質【寄木造り・ヒノキ】
像高【0.89m】
指定【国宝】

参考文献:
奈良の仏像 (アスキー新書)
ほとけを造った人びと: 止利仏師から運慶・快慶まで (歴史文化ライブラリー)